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晩春の鶴岡で「孟宗掘り」に密着しました!

月山や鳥海山の山肌が見え始める5月、鶴岡のスーパーマーケットや産直には「孟宗(筍)」が並びます。新鮮な孟宗はとてもやわらかく、アク抜きせずに食べられるほど。シャキシャキとした食感と、酒粕のたっぷり入った「孟宗汁」は、晩春には欠かせない鶴岡の郷土料理です。

ところで、孟宗ってどのように収穫するのでしょうか?

「こんど掘りに行きますので、一緒に来ますか?」と、声を掛けてくれたのは、孟宗汁のレトルト品の製造を手掛ける「野菜みらい計画」の三浦眞紀子さん。さっそく、ふるさと納税担当者が現場に同行しました。

私たちふるさと納税担当が向かったのは、鶴岡市役所から車で15分ほどの田川地区。“鶴岡の奥座敷”として知られる湯田川温泉街の近く、歴史的な旧跡が数多く残されている静かなエリアです。

鶴岡市街地から国道345号線を西に進む

ここで私たちを出迎えてくれたのは、地物の野菜を使った加工品の開発から製造販売を行う「野菜みらい計画」の三浦眞紀子さんと、孟宗山を所有管理する栗本孝雄さん。おふたりは、ここ田川地区で生まれ育った実の兄妹です。

三浦さん「私は18歳のときに進学で県外に引っ越したんですが、5月の連休のときは、いつも帰省してここで孟宗の収穫を続けていました。4年前の2020年に鶴岡にUターンして、いまは鶴岡や遊佐で地場野菜のプロデュースを手掛けています」

栗本さん「私も長いあいだ県外に住んでいましたが、3年前に鶴岡へUターンしました。これからみなさんと行く孟宗山は、私の先祖が代々保有してきた竹林です。孟宗がはじめて田川に移入されたとされる『大蔵院』の山と連なっているんですよ」

竹林に入る準備をする三浦さん(右)と栗本さん(左)
車を降りてここから竹林に入る

三浦さん「では、ついてきてくださいね。滑りますから、足元に気をつけてください」

栗本さん「竹が密集しすぎないように、秋に伐採して手入れしています。傘をさしてぶつからないくらいの間隔、だいたい竹と竹の間隔が2メートルくらいが目安ですね」

竹林に入ってすぐに筍を発見!

栗本さん「これはちょっと出過ぎですねえ。穂先が地表にわずかに出たものが、柔らかくて孟宗汁に向いています。育ちすぎたものはメンマなどの加工品として活用します」

三浦さん「あ、ここにちょうどいい孟宗を見つけました」

竹の根本に生える筍(目がなれないと見えづらい)

栗本さん「ここが根っこですね。この角度から鍬を入れたいけど、地下茎がここにあるので難しい。いけるかな? ……よいしょ。採れました!」

周囲の土を払って慎重に鍬を振る栗本さん
根本から掘ることができました
「今年はとてもいい孟宗が採れます。太くてきめが細かいんです」と三浦さん
鍬の入れ方を見極めながら手際よく掘り進める…

──ところで、ここは土が赤っぽいですね。

三浦さん「酸化鉄を含んだ赤土は、孟宗の生育によい環境だと言われています。ここは尾根のほうがとくに赤いんです。あと、湿度がありながら水はけがよい、適度に日光が差すことも孟宗にとって大事です」

──土壌や環境は地域によって違いますよね。

三浦さん「そうですね。土が違えば孟宗の色や形も異なります。太くて底のほうが厚いものがいい孟宗です。これは田川や湯田川孟宗の特徴ですね。三瀬の孟宗もこれに近いと思います。皮を剥いてみるとよく分かりますよ」

曲がっていない形のよい孟宗が採れました
収穫した孟宗はソリに載せて山を降りる

──孟宗汁のほかに、孟宗のおすすめの食べ方はありますか?

三浦さん「先端の部分は、土佐煮と若竹煮がおすすめです。木の芽和えもいいですね。筍の下のほうは硬めなので、チンジャオロースとか炒め物と相性がいいです」

栗本さん「あと、皮付きのまま丸焼きにするのもおいしいですよ」

「包丁が入るところまでは食べられます」と三浦さん
穂先のほうはゆっくりひねって皮をむく

三浦さん「ところで、孟宗汁に豚肉を入れるレシピが多いですが、ウチではもともと豚肉を入れていなかったんです。で、なんで孟宗汁に豚肉を入れるのかなと思って、いろんなおばあちゃんに聞いてみたんです」

──どんな答えが…?

三浦さん「孟宗の時期は種まきや田植えの時期と重なるので、酒粕入りの孟宗汁は農作業で疲れた身体をあたためて、塩分補給とビタミンBが豊富な豚肉が疲労回復になるから、という説が多かったですね」

──なるほど。

三浦さん「商品パンフレットで紹介する場合にはエビデンスがあるほうが説得力があるので、他に地域の農業事情と関係があるかもしれないと思って、山形県の庄内総合支庁の方に調べてもらったんです。そうしたら、1970(昭和45)年の減反政策で、JA庄内経済連(現・JA全農山形)が養豚に力をいれ、その後は官民一体で養豚による地域振興が図られたんだそうです」

──豚肉の食べ方を広げようとしたんですね。

三浦さん「つまり、豚肉の内需拡大のため、孟宗汁に豚肉を入れるようになったのではないか、と。こうした時代的な背景があったのは事実だと思いますし、今では庄内豚はブランドになり、地元の孟宗筍とは相性抜群ですね」

「庄内地方と孟宗筍の歴史」が書かれたパンフレット(写真は旧版)

──豚肉のほかに、わかめを入れるところもあると聞きます。

三浦さん「私のウチでは昆布を入れるんです。遊佐ではあおさをトッピングするし、三瀬ではにしんを入れたりする。地域ごと家庭ごとに味が違う。郷土料理であり、それぞれの家庭の味があるんです」

栗本さん「最近、私もあおさを入れた孟宗汁を頂いたんです。山の幸と海の幸を同時に味わえて、よく合っていました」

三浦さん「でも、郷土料理や家庭料理の商品化って難しいんです。みんな自分の食べてきた家庭の味がそれぞれにありますから。千差万別です」

──決定版を商品化するのは難しそうです。

三浦さん「だから、パッケージの中に紙を入れて『濃厚な味がお好みの方は、ご家庭のお味噌を足してください』って案内するようにしています」

──家庭の味にカスタムするわけですね。

三浦さん「核家族化が進んで、かつてのように孟宗汁の材料をいっぱい揃えて作るのが難しい時代になりました。でも『離れて住む娘や息子たちに、ふるさとの味を送りたい』と。そういう声もあって、孟宗汁のレトルトを商品化したんです」

──手軽にふるさとの味を楽しめるのは嬉しいですね!

皮を剥きながら孟宗のお話を聞かせてもらう
あっという間に皮が剥けました!

三浦さん「あと、時期の終盤になると、孟宗は長く固くなってくるので孟宗汁としては食べず、これまでは親竹として残すもの以外は伐採して廃棄してました。私たちはこの孟宗筍を収穫し、皮をむいて茹でてから塩漬けにしてメンマを作ることにしたんです。昨年(2023年)から6次化事業として取り組んで商品化し、産直や東京のアンテナショップで販売したら即完売となりました」

──余すことなく孟宗を活用されているんですね。

三浦さん「さて、きょうはおつかれさまでした。孟宗、おひとつどうぞ」

──なんと! ありがとうございます!!

というわけで、頂いた孟宗でさっそく孟宗汁をつくってみました。三浦さんが教えてくれた皮むきの方法と、郷土料理のレシピ集『つるおかおうち御膳』(鶴岡食文化創造都市推進協議会、2022)を参考にしながら、おっかなびっくり初めての孟宗汁づくりです(筆者は移住して3年)。

茹でているそばから筍のいい香りがする!
完成! ゴロッとしてサクッとした孟宗が嬉しい

採れたての孟宗は本当にアク抜きいらず。あっという間においしくいただきました。なにより驚いたのは、茹でているときに感じるほんのりと甘い筍の香り! 「鶴岡に引っ越してよかったな〜」と思う瞬間です。

やわらかいので2歳の子どもがモリモリ食べるぞ!

鶴岡の晩春の味「孟宗汁」。手軽にふるさとの味を楽しめる、野菜みらい計画のレトルト孟宗汁は、鶴岡市ふるさと納税の返礼品として取り扱い中です。

由兵衛さんちの孟宗汁(豚肉無し)と味付けメンマのセット

料亭の孟宗汁(豚肉有)と味付けメンマのセット

庄内の孟宗汁(豚肉有・無の二種類)食べ比べと味付けメンマのセット 由兵衛さんちの孟宗汁&料亭の孟宗汁

昆布出汁で仕上げた元祖孟宗汁
「由兵衛さんちの孟宗汁(酒粕入り・豚肉なし)」のレトルト商品
「日本料理わたなべ」店主・渡部賢さんが監修した
「料亭の孟宗汁(酒粕入り・豚肉あり)のレトルト商品
シャキッとした歯応えと柔らかい食感「由兵衛さんちの味付けメンマ」

ちなみに、今回の孟宗掘りの様子は「つるとぴ! 鶴岡市役所60秒広報室」でショート動画として公開しています。フレッシュな音にも注目です(イヤフォン推奨)。

三浦さん、栗本さん、ありがとうございました!

文・構成=水野雄太(鶴岡市ふるさと納税担当)
写真=齊藤悠紀(鶴岡市ふるさと納税担当)


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