[保存版]だだちゃ豆超入門ガイド
だだちゃ豆とその魅力
枝豆の王様、在来作物の横綱、畑の芸術院賞──など、賛辞の限りを尽くして褒めちぎられる「だだちゃ豆」は、鶴岡で受け継がれている在来品種の枝豆です。いったい、どれほどの味わいなのでしょうか。『庄内の味』を著した伊藤珍太郎(1904-1985)は、同書のなかで次のように評しています。
この表現がけっしておおげさでないことは、だだちゃ豆を食べたことのある人なら、きっと分かるはず。そんなだだちゃ豆を、これから楽しむ人も、あらためて知りたい人も、ぜひ抑えておきたい「キホンのき」をまとめました。
「早生」とか「本豆」とか聞くけど、どんな種類があるの?
鶴岡市内には、20種類以上もの在来枝豆があると言われています。現在、商標上「だだちゃ豆」と認められているのは、次の8品種。「だだちゃ豆」とひと口に言っても、香りや味わいの異なるさまざまな品種があるんです!
小真木だだちゃ(こまぎだだちゃ)
だだちゃ豆シーズンの始まりを告げる早生系品種のひとつ。7月下旬から8月上旬にかけて収穫。小真木という名称は鶴岡市内の地名にちなむ。早生甘露(わせかんろ)
こちらも夏の到来を知らせる早生系品種のひとつ。7月下旬から8月上旬にかけて収穫される。甘さに定評があり根強いファンが多い。早生白山(わせしらやま)
後述の「白山だだちゃ」から早生の変異種を選抜した品種。8月上旬にかけて収穫される。甘みとコク、香りのバランスがよい。甘露(かんろ)
8月上旬から中旬にかけて収穫される。後述の「白山だだちゃ」と同じように甘みが強く、それと異なる風味があると言われている。平田(ひらた)
8月中旬から下旬にかけて収穫される。味が濃いのが特徴。鶴岡市内の平田家が育成し「平田豆」とも呼ばれる。白山だだちゃ(しらやまだだちゃ)
「本豆」とも呼ばれ、濃厚な香りと旨味が特徴。全国的に人気が高い品種。8月中旬から下旬にかけて収穫される。晩生甘露(ばんせいかんろ)
甘みの強い「甘露」から晩生の変異種を選抜した品種。8月下旬から9月上旬にかけて収穫される。収穫期間が短く数量も少ない。尾浦(おうら)
大粒で甘みの強い品種。9月上旬から中旬に収穫され、これが出回ると夏の終わりの風情。尾浦という名称は鶴岡市大山の古い地名にちなむ。
だだちゃ豆は、世代を超えて自家採種(種苗店から種を購入するのではなく、農家が自ら種を採ること)が続けられています。したがって、同じ品種でも農家さんごとに味わいが異なるんです。食べ比べをしてみると、その違いに驚くはず。まるでワインやコーヒーの世界のようです。
どうやって栽培・収穫されているの?
かつて庄内地方では、庭先や田んぼの畔(あぜ)に枝豆が植えられていました。適度な水分が田んぼから届けられ、枝豆の栽培にちょうどよい環境だったようです。現在、稲と枝豆を交互に栽培する「輪作」の一環として、水田を転換した畑でだだちゃ豆を栽培しているケースも多くみられます。
そんな畑で育つだだちゃ豆に欠かせないのは、「根粒菌(こんりゅうきん)」と呼ばれる細菌です。これは、だだちゃ豆の生育に必要な窒素を届ける大事な存在。連作障害(同じ土地に同じものを作ることで作物の生育不良が起きること)を回避する役割があるとも言われています。この根粒菌をいかに多くできるかが、農家さんの腕の見せどころなのです。
おいしいだだちゃ豆は鮮度が命! そのため、だだちゃ豆の収穫はまだ辺りが暗い早朝のうちに始まります。甘さや風味が損なわれないよう、気温が上がらないうちに収穫するためです。収穫したらすぐに脱莢・選別・袋詰めされ、出荷されます。だだちゃ豆の本場・白山の直売所には、朝採りの新鮮なだだちゃ豆を求めて、開店前から長蛇の列が伸びる風景が見られます。おいしいだだちゃ豆へのこだわりを感じさせる、鶴岡の夏の風景です。
食べ始めたら止まらない。けど、身体にいいの?
いちど食べ始めると、その手が止まらなくなくなってしまうだだちゃ豆。それは、旨味(アミノ酸)、甘み(糖)、香り(アセチルピロリン)が、一般的な枝豆品種より多く含まれているから。おいしいだけでなく、次のような機能性成分が含まれていることもわかっています。
GABA
高血圧を抑制したり肝機能や腎機能を活発にし、脳内血流を活性化する働きがあると言われています。ストレスや疲労感の緩和。だだちゃ豆には発芽玄米の7〜10倍のGABAが含まれています。白山と早生白山が特に多い。オルニチン
成長ホルモンの分泌を促進し、美肌を維持する効果があると言われているオルニチン。一般的に多く含むと知られているしじみよりも多く含まれていることがわかっています。アラニン
しらすやゼラチン、のりなどに多く含まれるアラニンは、肝臓の働きを助けるアミノ酸です。アルコール代謝を改善する作用があると言われています。
おいしく食べるコツは?
だだちゃ豆の魅力をもっともシンプルに味わえるのは、やっぱり「塩ゆで」。ここでは、基本の茹で方を紹介します。
【沸かす】鍋にたっぷりの水を入れて沸騰させる
大きめの鍋を用意して、豆の約3〜4倍(鍋の中で豆が泳ぐくらい)の水量を沸かすことがポイント。【洗う】お湯を沸かしているあいだに、豆をこすり洗いする
ボウルや桶に少量の水と豆を入れ、ゴシゴシと強めにこすり洗いをします。莢に付いている「茶毛」を洗い落とことが目的です。【茹でる】鍋に塩(好みの量)を入れ、豆を入れてふたをする
強火で一気に茹で上げる。莢の合わせ目が少し切れ始めたら、茹で上がりの目安。香りが落ちるので茹ですぎに注意しましょう。【冷ます】茹で上がったらザルにあげて手早く冷ます
扇風機やうちわなどで扇いで一気に冷ます。お好みで塩をふる。
おいしく頂くためには、「届いた(買った)その日のうちに茹でること」、そして「茹ですぎないこと」が大事です。茹でた豆は2〜3日以内に食べ切ることをおすすめします。なお、少し硬めに茹でて冷凍すれば、1ヶ月ほど保存することができますよ。
鶴岡市のふるさと納税では、だだちゃ豆の返礼品を取り揃えております。ぜひ、ご自宅で鶴岡の夏の味覚を体験してみてください!
もっと知りたい人のための資料案内
もっとだだちゃ豆のことを知りたいと思った人は、まずはこちらからどうぞ。本稿もこれらの資料を参考にしました。
『だだちゃ豆物語』(ダダチャ豆を愛する会、1997)
全国的なブランドとして認知される前夜、白山だだちゃ豆発祥の地である大泉地区で編まれた小冊子。生産者や継承者のアツい情熱が伝わる!江頭宏昌ほか「ダダチャ豆の種類と歴史」(農耕文化研究振興会、2003)在来作物研究の第一人者・江頭宏昌教授による研究ノート。『農耕の技術と文化』所収に。だだちゃ豆系統の特性と来歴が参考になります。
阿部利徳『ダダチャマメ』(農山漁村文化協会、2008)
著者は遺伝育種学が専門で、山形大学農学部の阿部利徳教授(当時)。科学的な知見からだだちゃ豆のおいしさの秘密に迫る。山形在来作物研究会編『どこかの畑の片すみで』(山形大学出版会、2007)
山形大学農学部の研究者による解説のほか、県内の在来作物リスト、分布地図など。在来作物を知るための必読の書。パート2は2010年刊。鶴岡食文化創造都市推進協議会編『はたけの味』(メディアパブリッシング、2011)
庄内にある在来作物のレシピ集。だだちゃ豆の味噌汁、ペペロンチーノ、板焼きのレシピを掲載。写真が大きく眺めているだけでも楽しい!江頭宏昌「だだちゃ豆の由来考」(にいがた在来作物研究会、2021)
在来作物研究の第一人者・江頭宏昌教授によるルーツを探る論考。良食味の枝豆文化は、山形と新潟との交流のなかで成立したという説を紹介。JA鶴岡「だだちゃ豆データブック」
豊富な情報量が魅力なJA鶴岡のウェブサイト。