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「教えてください! あなたのお仕事」〈前編〉

鶴岡市では、みなさまから頂いたふるさと納税の寄附金を、市のさまざまな事業に活用しています。寄附者のみなさまは、お申し込み時に8つの分野から寄附金の使い道をお選びいただけます。各分野に関連する市の事業に充当される仕組みです。

といっても、なかなか知る機会の少ない事業の裏側。いったい、どんな人が、どんな取り組みをおこなっているのでしょうか。鶴岡市のふるさと納税スタッフが、日夜、さまざまな現場で奮闘する職員のみなさんにお聞きしました。

「教えてください! あなたのお仕事」

1. 暮らしと防災|コミュニティ推進課

寄附金の使い道「暮らしと防災」のひとつを担うコミュニティ推進課は、コミュニティセンターの施設管理や町内会などの住民自治組織の活動を支援する「コミュニティ推進事業」を行っています。463の町内会と33の広域コミュニティ組織(概ね旧小学校区単位の地域で構成されている住民自治組織)が存在する鶴岡市。それぞれの地域ごとにニーズや課題は多岐にわたるのだそう。コミュニティ推進とはどんなお仕事なのでしょうか。

お話を聞いた人|事業担当者(市民部コミュニティ推進課)
鶴岡市の出身。学校卒業後に旧鶴岡市役所に入庁。コミュニティ推進課は4年目。異動後すぐに新型コロナウイルスの感染拡大の時期にあたった。

──コミュニティ推進課ってどんなことをしているのでしょうか?

担当 おもな業務は、コミュニティセンターの施設管理や町内会など住民自治組織の活動への財政支援、地域が抱える課題などへのソフト面での支援です。ただ、私たちが主体的に事業をどんどん進めているわけではなく、あくまでも主役は地域住民の方たちです。みなさんの地域活動をサポートする黒子的な存在だと思います。

──黒子的な存在とはどういうことでしょうか?

担当 市民の方から、「町内会は市の管轄でしょ」といったお問い合せをいただくことがありますが、町内会は行政の下部組織ではありません。自分たちが暮らす地域のために、住民のみなさん自身が考え、決め、活動する自治組織です。自立した組織ではありますが、市では安全で心豊かな暮らしに地域コミュニティが重要であると考えていますので、持続可能な地域づくりができるよう、活動や運営への交付金や優良事例の共有などを通してサポートを行っています。

──たとえば、どんなことを?

担当 広域コミュニティ組織への支援のひとつとして、アドバイザー職員制度というものがあり、地区の課題解決に向けた住民主体の地域活動を促進するために、要請内容に応じて市職員を配置しています。たとえば、「地区のために何かしないといけないとは思っているんだけど、何をしたらよいかわからない」と悩んでいる地区があったら、その地区に精通した職員を配置して、地区の強みや弱みを聞きながら、一緒に活動を考えたり提案をしたりします。でも、最終的に決めるのは地区の方たちで、職員はサポート役です。地区ごとに課題も特性も違うし、役員の方たちの考え方も違います。一つとして同じ正解や方法はありません。未来から現在を見たとき、いまやっていることは本当に正解なのか、不安になることもあります。どういった支援が地区のためになるか日々悩みながらですが、その地区がやる気になって、新しいことを始めるプロセスに伴走できるのは、やっぱりワクワクしますね。

──地域をとりまく状況も変わりつつあります。

担当 たとえば、学校の統廃合によって地区内の小学校が廃校になる、といったことがあります。廃校の数年後、地区の方から「子どもたちはスクールバスで他の地区に通うので、歩いている姿を見ない。すると大人が声を掛ける機会が減り、地区に住んでいる子どもの顔がわからなくなる。また、学校での行事が主になるため、地区内の親子だけで顔を合わせることが少なく、同じ学校に通ってはいても誰が同じ地区に住んでいるのかよくわからない。そして、学校がないから子育て世帯が引っ越してしまい、より人口減少が進んでいるように感じる」とお聞きしました。学校の統廃合はやむを得ないことかもしれませんが、地域の視点から見るとそんな悩ましい実態もあります。

──難しい問題ですね。

担当 だからこそ「自分たちでなんとかしなければ」と、危機感を感じて自ら動き始めている地区もあります。とくに海沿いの地区がその傾向が強いと感じています。ここは地区が目指す姿やその実現に向けた取り組みをまとめた「地域ビジョン」を作るのも早かった。津波など災害への危機意識の高さが、つながりの強さを生んでいるのかもしれません。廃校を子どもたちの遊び場につくり替えた小堅地区の「こがたランド」や、湯野浜や加茂地区のまち歩きイベントは、地域のみなさんが計画を立て、実行しています。今の世の中は、地域への関心が薄れてきている風潮があると言われていますが、地区の方たちが力を合わせてひとつのものを作り上げている姿を見ると、本当にすごいなと思います。

──町内会の人手不足を指摘する報道を見たことがあります。

担当 市では優良事例を共有したり研修会を開催するなどして、持続可能な地域づくりを支援していますが、「もう担い手がいないから町内会を解散したい」という声も実際にお聞きします。でも、こんな光景も印象に残っています。2022(令和4)年12月に西目地区で土砂災害が起きたときのことです。私たちの役割は避難所の開設でした。地区では会長さんをはじめ役員の方々も避難所に集合し、状況確認や情報交換をされていたり、地区のみなさんが被災された方を心配して避難所に来られたりと、助け合っている様子を目の当たりにしたんです。「ああ、これがコミュニティの地域力なのか」と思った瞬間でした。普段の活動がここに結びついているのだと思うと、日々の暮らしのなかでの地域とのつながりが、いかに大事なものかを実感しました。

[2023年10月30日、鶴岡市役所4階にて]

コミュニティ推進課の前には、各町内会や自治会が発行している個性的な広報誌がずらり。


2. 福祉と医療|健康課

寄附金の使い道「2. 福祉と医療」のひとつに「妊婦健康診査・家庭子育て機能育成事業」があります。市民の妊娠・出産・産後の生活を安心して過ごせるようサポートする事業です。これを担当しているのは健康課の母子保健係。市役所から徒歩5分ほどの総合保健福祉センター「にこふる」を訪ねました。

お話を聞いた人|佐藤まゆみさん(健康福祉部健康課 母子保健主査)
藤島地区の出身。保健師として藤島町役場に入庁。鶴岡市に合併後、櫛引庁舎、子ども家庭支援センター、長寿介護課などを経て現職。

──母子保健係はどのようなことをしているのでしょうか?

佐藤 まず、妊娠期から子育て期にわたり切れ目ない支援を行う「子育て世代包括支援センター」機能があります。健康課と子ども家庭支援センターが連携し、子育て家庭をサポートする仕組みです。健康課では母子健康手帳交付、プレママ教室、母乳・ミルク相談、産後母子ケア事業などを行っています。

──私も1歳の子どもがいるので健康課にお世話になりました。

佐藤 その他に、妊婦健康診査、新生児聴覚検査、妊婦歯科健康診査助成事業等の経済的支援も行っています。

──業務にあたってどんなことを意識していますか?

佐藤 経済的・養育困難家庭に対しては、保健師、助産師など関係機関の連携を大切にし、困難さが軽減されるように心がけています。また、一般的な家庭に対しては乳幼児期の発育・発達を確認し、安心して子育てできるようにと意識しています。

──人生の最初の時期に関わる繊細なお仕事ですよね。

佐藤 乳幼児期の愛着関係は大人になってからも影響すると言われています。妊娠期や子育て期の保護者に対し、乳幼児期の愛着形成の大切さを伝えていければいいなと思っています。

──健康課の皆さん、とてもお忙しそうでした。

佐藤 ときに緊急対応しなければならない時もあり、その対応に追われることもあります。しかし、時間がない時ほどあわてず丁寧な対応をしなければならないと思っています。

──つねに緊張感がある大変なお仕事ですね。

佐藤 どの部署も同じです。安心して子育てできるように支援している部署になります。子どもだけでなく、お父さんやお母さんへの関わりも大切にしています。他市と比べて特別なことはしていませんが、必要な支援を必要な市民に届けられるように丁寧な対応を心がけています。

[2023年10月20日、総合保健福祉センター「にこふる」にて]

「にこふる」の中には車椅子もベビーカーもある。


3. 学びと交流|教育委員会

寄附金の使い道「学びと交流」のひとつを担う教育委員会。なかでも「小中学校教育活動充実推進事業」は、いつもの教室を飛び出して、鶴岡をまるごと体験して学ぶための事業です。子どもたちはどんなところで学ぶのでしょうか。櫛引庁舎にある鶴岡市教育委員会を訪ねました。

お話を聞いた人|本間紘さん(教育委員会学校教育課指導係 指導主事)
堅苔沢地区の出身。大学卒業後にUターン。朝暘第三小学校、朝暘第五小学校の教諭を経て現職。教育委員会2年目。令和3年度に文部科学大臣優秀教職員表彰を受賞。

──小中学校教育活動充実推進事業ってどんなことをしているのでしょうか?

本間 おもな取り組みは、校外学習と地域学習、そしてスキー教室です。校外学習の行き先は学校によりますが、たとえば小学1年生は加茂水族館、2年生は致道博物館や荘銀タクト、3年生は消防署や警察署、4年生はゴミ処理場や月山ダム、5年生は水田農業研究所、6年生は地質学習のために湯野浜や由良に行ったりします。

──中学生はどこに行くのでしょうか?

本間 一例を挙げると、湯野浜や加茂など自分の学区のまち歩きをして、SDGsの視点で自分たちの地域を見つめ直すというのがあります。実際に歩きながら「湯野浜海水浴場はすてきだけど、ゴミが多いよね」といった意見が出てくると、「じゃあ、そこで自分たちはなにができるだろう」といったことを総合的な学習の時間のなかで考えて行動します。

──「地域学習」はどんなことをするのでしょうか?

本間 学区の統廃合が行われても、これまでの学区のことを深く知るために、バスで出掛けて地域を体験します。2014(平成26)年に田川小学校と湯田川小学校、朝暘第四小学校が統合しました。いま四小の児童はバスで田川と湯田川の公園に行って散策して自然とふれあったり、名所や温泉の歴史を学んだりしています。

──本間さんは小学校の先生ですが、どんな授業を?

本間 いまは教育委員会に出向していますが、もともとは小学校の教員です。私、英語教育がとっても好きなんです。いま小学3年生から外国語学習が始まっていますが、われわれが受けてきた英語の授業って、コミュニケーションがありませんでしたよね。“This is a pen” とか言われても「見ればわかるじゃん」って(笑) そうではなく、友達のいいところを知るとか、僕のことを知ってもらうとか、仲良くなるためのツールとして英語の授業を展開したいなと思っていたんです。

──話したいことを話せるのは楽しいですよね。

本間 一方で、外国語学習のことを考えるほど、子どもたちには鶴岡のことも知ってほしいなと思うようになりました。小学校の教員をやっていた頃、国際理解・開発教育の教材をつくるために、JICA(国際協力機構)のプログラムでスリランカに滞在したことがあるんです。そこでスリランカの子たちと交流すると「鶴岡ってどんなところ?」って絶対に聞かれるんです。

──灯台もと暗し、身に覚えがあります。

本間 子どもたちが外国の友人に「鶴岡ってどんなところ?」って聞かれたときに「なんもない」って言ってほしくないんです。加茂水族館も致道博物館もスキー場も、こんなにいいところがあるんだよ。櫛引ではフルーツがいっぱい穫れるんだよ、って。朝暘第三小学校に勤めていた頃、山形大学の留学生をクラスに呼んで来てもらったんです。すると子どもたちは「鶴岡のことを教えたい!」「だから知らなきゃ!」ってなるんです。外国語の学習こそ、ふるさとの学習が大事だなって思いました。知識を覚えるだけではなく、それらを結びつけて自分で考えられるようにすること。その土台になるのは、実際に見る、聞く、感じることなんだと思います。

──学びの現場を大切にされているんですね。

本間 このあいだ市内の中学校に行って出前授業をやりました。久しぶりに教室の空気を吸って「ああ、やっぱり私は学校の人なんだな」って思いました。いまは子どもたちと給食を食べられるわけではありませんが、教育委員会の一員として、鶴岡市の全児童・生徒の担任になったつもりですよ。

[2023年11月16日、櫛引中学校校庭にて]

教育委員会が入る櫛引庁舎の正面には、広い校庭の櫛引中学校がある。


4. 農・林・水産業|農政課

寄附金の使い道「農・林・水産業」の一翼を担う「農業人材育成確保事業」は、経営感覚を持った農業者の育成・確保を図ることが目的です。その柱となるのが、鶴岡市立農業経営者育成学校「SEADS(シーズ)」。これからの時代を担う農業者を育成する学校として、2020(令和2)年に創設された新しい農業学校です。

お話を聞いた人|渡部恒平さん(農林水産部農政課 農政専門員)
朝日地区の出身。朝日村役場に入庁後、水道課、朝日分室教育課、産業建設課などを経て現職。農政課は5年目。普段はSEADSに駐在している。

──SEADSの開校にはどんな背景がありますか?

渡部 農業は鶴岡市の基幹産業のひとつです。農業産出額は県内1位で、鶴岡の食文化を支える大事な産業です。ですが、その農業の担い手が不足しています。高齢化で離農者が増える一方で、新たな就農者が減っているのです。これからの時代を担う多様な就農者を育成することを目的として、産学官が連携してSEADSを創設しました。

──入学者のみなさんはどんな人たちですか?

渡部 職業も年齢も出身地も、みんな本当にバラバラです。だから、農業のスタイルも人によってまったく違います。SEADSでは、1年目にメロンやミニトマト、枝豆、きゅうりといった作目の栽培を学びます。まずはいろんな作目を経験をして、自分がどういうものをつくりたいのかを考えてもらうんです。2年目は自分が目指す農業に合わせて、実習を受け入れてくれる農家の圃場で栽培技術を学びます。もちろん実習先でうまくいかないこともあります。つくりたい作目が変わることもあるでしょう。研修生は座学と実習で農業を学び、行政、JA、教育機関、民間企業はそれぞれの得意分野を活かして研修生の就農と営農をサポートしています。

──研修生の多様なニーズを受け入れるのは大変ですよね。

渡部 開校してからも、カリキュラムや運営体制の見直しなど改善を繰り返してきました。毎年違うスタイルの運営をしているので、いまは1年目の状況とがらっと変わっています。たとえば、当初は不定期に座学を行っていたのですが、去年から木曜日に固定しました。そうすることで、実習研修の日程が組みやすくなりました。毎年体制を変えているので、これまでに同じことを繰り返した年はありません。

──開校から4年目を迎えました。

渡部 1期生と2期生が卒業して、いま修了生は14名になりました。独立して就農した人、雇用就農した人、それぞれ半々ですね。学校への問い合わせも少しずつ増えています。北は青森、南は鹿児島まで、他の自治体が視察に来ることもしょっちょうです。

──SEADSは“Shonai Ecological Agri Design School”の略ですが、日本語の校名(農業経営者育成学校)とニュアンスがちょっと違う気がします。

渡部 いいところに気づきましたね。“Ecological”は「持続可能な」、“Agri Design”は「農業の技術と経営」を意味しています。読み方は「シーズ」ですが、“SEEDS(種子)”ではなく、Aを使っているのは、“Agri”のAに「人」という漢字を見立てているからです。農業は人づくりが大切だよ、ということですね。

──渡部さんはSEADSのなかでどんなお仕事を?

渡部 具体的には生活指導です。研修生ひとりにつき複数人の担任がついています。私も研修生4人を指導しています。たとえば「お腹が痛いのでどこの医者に行けばいいか」とか、「これから住む家を探したい」とか。そんな相談に乗ったりしています。先生というよりは話し相手ですかね。

──農業のことだけではなく、鶴岡での暮らしについて相談できるのは心強いですね。

渡部 ここで2年間研修したからといって、すぐ一人前の農家になれるわけじゃありません。その後の生活や農業のこともフォローしていかないと。だから、研修生が修了して、またここに相談に来てくれると嬉しいですね。このあいだも、修了生が土壌のpHを測りに来たり、提出する書類の相談に来たり、「この虫はなんだ」とか聞きに来たりして。よろず相談所って感じですね。

[2023年10月18日、SEADSにて]

SEADSのテーマカラーは赤と緑。学校案内のパンフレットは、年ごとに色を替えているのだそう。

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  • 本稿は、2022(令和4)年度にふるさと納税の寄附金を充当したおもな事業担当者に取材した話をもとに、ふるさと納税担当者が構成しました。

  • ふるさと納税でいただく寄附金の使途は、第2次鶴岡市総合計画にひもづく8つの分野からお選びいただけます。2022(令和4)年度における寄附金の充当額はこちらをご覧ください。

  • 各事業の概要は第2次鶴岡市総合計画に掲載されています。

  • 所属や肩書は取材当時のものです。

文・構成=水野雄太(鶴岡市ふるさと納税担当)
写真=齊藤悠紀(鶴岡市ふるさと納税担当)

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